サマーソニック2023

サマーソニック2023が8月19、20日、千葉・幕張と大阪・舞洲で開かれた。4年ぶりに開催制限がなくなり、20万枚以上のチケットが過去最速で完売。幕張では、これまで一つのステージに集約されていたアジア圏のアーティストが洋楽、邦楽に交じって6ステージに振り分けられ、ファンが未知の音楽に接する機会を提供。フェス参加者の裾野を広げた。

ブラーとリアム・ギャラガー(元オアシス)のブリットポップ勢が出演したことは30~40代の洋楽ファンを喜ばせた。10~20代のファンを巻き込んで話題になったのが米ラッパー、ケンドリック・ラマーと韓国のニュージーンズだ。

ケンドリック・ラマーは10年代のデビュー以降、ジャンルの枠を超えて評価が高い。ビートルズやボブ・ディランが取っていない米ピュリツァー賞をヒップホップのアルバムで受賞している。今回の公演は、ライブというよりもステージを使った総合アートという様相だった。もちろん、ライブの盛り上がりを駆動させるのは彼のラップであり音楽だが、演出は他のアーティストと異なる。ステージの背景はライブの中継映像を流すのではなくアフリカ系画家の作品を使用。ダンサーは曲に合わせて踊るところもあるが、抽象的なコンテンポラリーダンスではその動きの意味を考えさせる。アフリカ系労働者の日常を再現する場面もあり、大きなごみ収集カートを押す姿、本を読んでいるのに机を奪われるシーンは、アフリカ系アメリカ人の労働や教育環境の厳しさを訴えていた。彼らはダンサーというよりパフォーマーだった。スタジオ録音の実演再現ではないライブを示し、舞台アートとしてメッセージ性も備えることにも成功した公演だった。

韓国の女性5人組、ニュージーンズは、炎天下の正午スタートという新人扱いの時間帯にもかかわらず、約3万5千人収容のスタジアムが異例の入場規制となった。大型スクリーンにメンバーが大映しになるたびに若い女性の大歓声が湧く。日本語のMCも違和感がなく、イメージに合っていた。試しに見に来たKポップ初心者は、洋邦のグループと比べることでKポップの質の高さを相対化しただろう。中国の張惠妹、韓国のエンハイプン、トレジャー、タイのイン・ワラントンらもアジア圏のレベルの高さを見せた。Kポップやアジア圏のポップスを聞く若いファンが多数サマーソニックに訪れた意義は大きい。Kポップだけでなく、他のジャンルを見る機会に恵まれたからだ。今後、参加者の高齢化が進む既存フェスを支えていくのは彼ら、彼女らだ。

このほか、ウェット・レッグ、ノヴァ・ツインズ、フロー、インヘイラー、Awich(エーウィッチ)、新しい学校のリーダーズ、YOASOBIらも好演した。

コロナ禍で大きな試練を経験した夏フェス主催者は、コロナ前と同様の開催が可能となった今夏を「仕切り直し」とするかのように新たな運営を試みた。客層の入れ替わりも目立ち、来年以降の課題も浮上した。

この夏、音楽フェス関連で大きなニュースとなったのは、サマーソニック東京のマリンスタジアムで体調不良者が続出したことだ。救護所に体調不良者が複数いるとの119番が参加者からあり、千葉市消防局が出動した。猛暑による熱中症が全国的に注目されていた中での開催だったため、運営のあり方に批判が及んだ。数十回の夏フェス参加経験から言えば、救護所に体調不良者が複数いることは珍しくなく、参加者が担架で運ばれる姿はいくつかのフェスで見ている。今回のサマーソニックは、若い女性をファン層とする出演者が多く組み込まれた。このため、初日の開場を待つ女性らの行列が前日深夜からできていた。早朝5時前の行列は少なくとも100人以上おり、若い女性ばかりだった。目当ての出演者が真昼に登場したとしても、待ち時間は7時間。体調不良の要因は熱中症のほか、疲労もあったとみられる。野外フェスに慣れていないということは、ロック・イン・ジャパンなどの国内フェスにほとんど行っていないということであり、邦楽ファンではないことを示唆させる。

コロナ前までのフェス主催者は、客がある程度の事前準備をしているとの前提で運営をしてきた。自己責任とは言わないまでも、トラブルに自ら対処できるだけの対策をしておくよう呼びかけてきた。今回の件は、新しいファン層に対応した事前告知の必要性を感じさせるとともに、これまで主催者が訴求し得なかった層を、会場に誘い出すことに成功したとも言える。

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