フジロックフェスティバルが7月26~28日、新潟県湯沢町の苗場スキー場で開かれた。参加者は前夜祭を含め延べ9万6千人だった。開催地が同スキー場に移ってから今回で25回目。2005年以降はコロナ禍の2回を除いて10万~14万人を動員していたが、今年は10万人を割り込んだ。
メインステージのトリは26日がザ・キラーズ、27日がクラフトワーク、28日がノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ。トリの予定だった女性オルタナティブR&B歌手のSZA(シザ)はキャンセルとなり、今見ておくべき旬のアーティストだっただけに残念だった。結果的にトリの3組が全て白人男性グループになったが、開催2カ月前にキャンセルしたSZAの代役に、2週間で大物のザ・キラーズを立てた主催者を称賛したい。クラフトワークとノエル・ギャラガーは近年サマーソニックでも来日しており、待望のライブとなったのはザ・キラーズだ。
ザ・キラーズは04年にデビューし、24年にベスト盤が出た。ライブの選曲はベスト盤中心なので1曲目からヒット曲の連発だった。途中、メンバーからステージに引き上げられたファンの男性がプロ並みのドラム演奏でバンドと協演し、大きく盛り上がった。
ザ・キラーズの最重要曲「オール・ディーズ・シングズ・ザット・アイヴ・ダン」はライブ本編の最後に披露された。アンコールの最後は「ミスター・ブライトサイド」だったが、そこでも「オール・ディーズ・シングズ・ザット・アイヴ・ダン」の有名な一節「I got soul but I'm not a soldier」を観客に向かって繰り返し叫んだ。今回のフジロックは「フリー・パレスチナ」と訴える出演者が複数いたが、ザ・キラーズは自らの音楽で反戦のメッセージを伝えた。
メッセージを伝えるライブはクラフトワークも同様だった。基本的な構成は最近の日本公演と同じで、違ったのは中盤。前年の23年に死去した坂本龍一を追悼し「戦場のメリークリスマス」をカバーした。反原発の曲「放射能」では日本語詞(坂本龍一監修)を大型モニターに表示させ、直接的な言葉で反原発を訴えた。曲自体はチェルノブイリ、ヒロシマ、フクシマという単語が含まれる英語詞で歌われたが、初めてライブを見た人には強い印象を残しただろう。パリ五輪とタイミングが重なった「ツール・ド・フランス」や日本語詞が含まれる「電卓」も披露された。
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズは、以前に比べ「ホワットエヴァー」「リヴ・フォーエヴァー」などオアシス時代の曲を多く演奏し盛り上がった。直近2枚のアルバムは素晴らしく、そこからの選曲も大きな歓声が上がった。サプライズはジョイ・ディヴィジョンのカバー。最後はいつも通り「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」で締め、大合唱となった。
反戦メッセージを伝えるザ・キラーズ、データや機械に主体性を奪われていく世界を歌うクラフトワークは、彼らがなぜ世界のトップアーティストなのかをライブで証明して見せた。ノエル・ギャラガーは今回も、数万の人々が一体となることの歓喜と可能性を示した。フジロックの観客動員が減っても、時流にあらがおうとするトリ3組のエネルギーは変わらなかった。
出演時にアルバムが1枚しか出ていなかったのはフリコ、ザ・ラスト・ディナー・パーティー、レイ、テディ・スウィムズ、ペギー・グーなど。いずれも既に世界的に成功している。フリコはギターとドラムのデュオ。2000年代に流行した2人で完結するスタイルではなく、ベースやキーボードを含めた5人で公演した。音も当時の流行と異なり、やや抽象的だった。ザ・ラスト・ディナー・パーティーはイギリスの女性5人組。演奏はギターを中心に安定し、個性を確立すれば大成しそうだ。レイは女性、テディ・スウィムズは男性のソロ歌手。2人とも声が驚くほど安定し、うらやましいほどだ。
世界で最も有名なアジア人女性DJ、ペギー・グーは韓国出身。DJなので音に韓国らしさは少ないが、ボーカル曲には韓国語もあり、スクリーンにはハングルも出てくる。リナ・サワヤマやミツキら、海外人気から逆輸入されるアジア人アーティストが増えているが、ペギー・グーはその代表かもしれない。時折知られた曲を引用しながら盛り上げた。
日本のロックバンド、クリープハイプは結成15年で初登場。歌詞を手がけるボーカル・ギターの尾崎世界観は、女性を一人称にした「満たされない私」の焦燥感を歌う曲が多い。現代の若者の心理を巧みにすくい取って言語化する才能は高く評価され、小説は2作が芥川賞候補。NHKラジオは8月末、10代の若者の悩みを受け止める特別番組のMCに起用している。バンドの演奏は一般的なロックバンドとそれほど変わるところはないが、尾崎のMCは秀逸だった。「自分がずっと同じことの繰り返しでいいのか不安になる。ステージに立っていても満たされなさや寂しさは消えないが、理解してもらえない気持ちや足りなさをこれからも大事にしたい」。共感や寄り添い(for you)よりも「私も(me too)」というスタンスが強く伝わってきた。
米ハードコアバンドのターンスタイルは、最新アルバムが「ハードコアの可能性を広げた」と高く評価されている。ハードコアの一般的なイメージは「衝動的」「破壊的」だが、ターンスタイルのライブもそのイメージに沿った、いわば「ルール通り」のモッシュサークルができる。しかし、バンドはそうした「お決まりのライブ」を破壊する。最後の曲で、メンバーは観客をあおり、多数の客がステージに上がった。その騒ぎの中で演奏が進む。かつてイギー・ポップも客を多数ステージに上げてライブが中断したが、ターンスタイルはその状況のまま公演が終了。最終日のトリの、最後の曲でしかできないパフォーマンスだった。
1970年代後半から活動する元ソニック・ユースのキム・ゴードンは前衛的に攻めた音で、オルタナティブ志向を貫いていた。90年代にトリップホップを開拓したポーティスヘッドのボーカル、ベス・ギボンズは次第に暗くなる夕暮れと音響がリンクし、野外だからこその雰囲気を醸し出した。時間帯の妙は主催者によるタイムテーブルの演出が成功した。