テイラー・スウィフトは1989年生まれのアメリカのシンガー・ソングライター。2010年代の若手白人女性のトップアーティスト。カントリーポップでデビューし、シンセサイザーを多用したポップスに変化している。シャナイア・トゥエイン、リアン・ライムス、ディクシー・チックスが開いた90年代カントリーポップをフェイス・ヒルが2000年代にエンターテインメント化し、2000年代後半にテイラー・スウィフトがさらにポップ化させた。同時期に出てきたキャリー・アンダーウッドよりも宗教色、カントリー色が少なく、アメリカ以外にも人気がある。
2006年。アルバムが出た当時、テイラー・スウィフトは16歳。7曲目まではカントリー風の曲とポップな曲が交互に出てくる。後半はポップな曲が多い。若いので高音が自然な発声で出てくる。ポップな曲はロックのような派手さを抑えている。歌詞は14、15歳頃のテイラー・スウィフト自身の経験を回想し、元に戻ることのない過去、主に恋愛について歌う曲が多い。16歳の時点で早くも過去の自分をある程度距離を置いて見ることができている。「ティム・マックグロウ」はカントリー歌手のティム・マッグロウのこと。日本盤は2010年発売。
2008年。カントリーポップに留まっているが、ややポップ寄りのサウンドになった。アルバムの過半数はポップと言うよりもロックの影響が大きい。90年代のカントリーポップはアコースティックギター中心の曲調を手放さなかったが、テイラー・スウィフトはそれを大きく減らしていてもカントリーポップの雰囲気は維持している。テイラー・スウィフトはこのアルバムの時点でもまだ18歳なので、歌詞は激変した人生よりも過去の恋愛経験が中心となっている。ミドルテンポで弾き語り風の曲はドラムがブラシを使って演奏する。「ユー・ビロング・ウィズ・ミー」「フォーエヴァー&オールウェイズ」はポップだ。このアルバムで日本デビューしているため、日本盤には前作の曲である「シュドゥヴ・セッド・ノー」「ティアドロップス・オン・マイ・ギター」「アワ・ソング」「アイム・オンリー・ミー・ホエン・アイム・ウィズ・ユー」がボーナストラックとして収録されている。
2010年。白人、金髪、露出を強調しない健康的なファッションという見た目の入り口で幅広い年齢層の白人の支持を得るとともに、カントリーをあまり聞かない20歳前後の女性のファンも広く獲得した。テイラー・スウィフトのアルバムはカントリーか、ポップか、という論争を無意味にするレベルまで人気が高まり、ポピュラーな歌手の地位を確立した。前作の成功によってテイラー・スウィフトは周辺からの接遇に変化が生じ、その状況自体を曲にすることもできたが、10代のころの経験を20歳の現在から見るという基本路線は変えていない。不協和音や歪みが少ないエレキギターを使い、耳をつんざくことがない。ポップになっても大きな冒険をしないところは安心できる。「ミーン」はカントリーポップ。「ザ・ストーリー・オブ・アス」「ベター・ザン・リヴェンジ」はロック。
2011年。ライブ盤。CDとDVDの2枚組。CDの16曲のうちカバー曲以外の13曲はすべて「スピーク・ナウ」に収録されている曲。「テイラー・スウィフト」「フィアレス」収路曲はメドレーの一部として入っている「ユーアー・ノット・ソーリー」だけで、ライブ盤としては特殊な選曲だ。DVDでは「ユー・ビロング・ウィズ・ミー」「フィアレス」「フィフティーン」「ラヴ・ストーリー」も収録されている。歓声は大きい。4曲目まではポップな曲が続き、「アワーズ」「バック・トゥ・ディセンバー/アポロジャイズ/ユーアー・ノット・ソーリー」で落ち着き、「ベター・ザン・リヴェンジ」でロックになったあと弾き語りに移る。トレインの「ドロップス・オブ・ジュピター」、キム・カーンズの「ベティ・デイヴィスの瞳」、ジャクソン・ファイブの「帰ってほしいの」はカバーを3曲並べているが、DVDでは「ドロップス・オブ・ジュピター」だけになっている。カバー曲はどれも短い。ライブ盤としては、ライブならではの編曲は少なく、テイラー・スウィフトのMCも限られている。
2011年。クリスマス曲集。6曲収録。2曲はテイラー・スウィフトの新曲となっている。どの曲もカントリーポップのサウンド。「ラスト・クリスマス」はワム、「ホワイト・クリスマス」はビング・クロスビー、「サンタ・ベイビー」はアーサ・キットのカバー。
2012年。オープニング曲はアコースティックギターが出てこないポップス。「トラブル」「22」「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」の3曲はマックス・マーティンがプロデュースし、他の曲よりもポップになっている。1970年代のシンガー・ソングライターと比べるまでもなく、カントリーの要素は薄くなった。特定のジャンルでデビューしたアーティストが、途中で音楽の方向性を大きく変えたとき、さらにデビュー当初のジャンルを超越しようとしたとき、必ず起こる議論はそのアーティストの所属ジャンルだ。テイラー・スウィフトの場合も、このアルバムによってカントリーのアーティストなのかポップスのアーティストなのかの議論が起こっている。この種の議論の着地点は、アーティストをどこかのジャンルに閉じ込めたり、択一的にジャンルを決めたりすることはアーティストに対する理解の妨げであり、議論が起きることそのものがそのアーティストの存在価値であり、ジャンルの壁を破壊して橋を架けることが表現の幅を拡大するということだ。ジャンルが何かを結論付けずにあいまいなまま受容し、ジャンルを超えた存在として理解する余裕が必要だ。「ザ・ラスト・タイム」はスノウ・パトロールのボーカルと、「エヴリシング・ハズ・チェンジド」はエド・シーランと共演している。「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりはしない」「トラブル」「ビギン・アゲイン」収録。
2014年。1980年代中盤のシンセサイザーポップ、ニューロマンティクスを2010年代に再現している。エレクトロポップに聞こえないようにしているところが音作りの肝だろう。現代のテイラー・スウィフトファンと、その親世代が安心しそうなサウンドだ。「シェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!」はアヴリル・ラヴィーンの「ガールフレンド」を意識したような若い曲。この曲と「アイ・ウィッシュ・ユー・ウッド」はバンド演奏に近い。曲ごとにプロデューサーが作曲から演奏まで関わる。マックス・マーティンが半数の曲を制作している。
2017年。「1989」のエレクトロ路線をさらに進め、ほとんどの曲がシンセサイザーとプログラミングによる音で構成される。カントリーポップの代表的女性アーティストというイメージを拒否しようとしていることは明確だ。オープニング曲の「・・・レディ・フォー・イット?」はアフリカ系女性歌手のような曲。「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ~私にこんなマネ、させるなんて」「ゴージャス」「ゲッタウェイ・カー」「ダンシング・ウィズ・アワ・ハンズ・タイド」はバンド編成で録音してもヒットしそうだ。最後の「ニュー・イヤーズ・デイ」だけがアコースティックギターとピアノで演奏される。テイラー・スウィフトがこのアルバムのために書いて載せている文章は重要で、テイラー・スウィフトが成熟した大人の理解力を備えていることが分かる。それは自己の万能感や無謬性を信じることが未熟さの象徴と気付き、人間や社会の多面性を認め、多くの人が未熟であることに無自覚なまま大人になることも理解しながら、自らの生き方の基本を提示している。このような理解に達する人は社会の中の一部だけだ。理解の度合いによって社会から割り当てられる地位が決まり、生活上の利益と比例することによって社会の階層差が生まれる。達しない者が多数であるが故に自己、または自己の帰属集団を上位に引き上げる集合的エネルギーが発生する。引き上げる要素を持たない者は他者の集団を引き下げることで相対的に自己を引き上げる。テイラー・スウィフトがこの文章を載せたきっかけは自分へのさまざまな評判に対する包括的回答だったかもしれないが、載せたタイミングは時勢と共鳴している。
2019年。シンセサイザーを多用するポップスだが「レピュテーション」のような陰鬱さは薄れ、ポップに回帰しつつある。「レッド」や「1989」のような若さを感じさせる力強さよりも、経験を積んだ前向きさがある。「1989」までは自分とその周辺に起こる出来事を歌い、「レピュテーション」では巨大化した大衆イメージとテイラー・スウィフト自身の自己認識のずれを歌っていた。「レピュテーション」は、テイラー・スウィフトが社会的存在として意識せざるを得なくなった日常空間の拡大が示されており、多くの若年層と同様に、「社会化する自己」と「精神的に追いつかない自己」の差の埋め合わせに悩んでいた。「ラヴァー」では、その問題が簡単には解決しえないものとして消化され、「私の主張」の力強さよりも「主張する私」の経験的視点、または他者視点が上回る。「クルーエル・サマー」「ペーパー・リングス」はアップテンポのポップス。「スーン・ユール・ゲット・ベター」はディキシー・チックスが参加し、ギター、バンジョー、バイオリンが使われる。「Me!」はパニック・アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーが参加している。
2020年。ピアノを中心とする弾き語り風の曲が多い。「フォークロア」というアルバムタイトル、モノクロのアルバムジャケットが、「レピュテーション」のアコースティック版を予測させる。「ザ・ラスト・グレイト・アメリカン・ダイナスティ」「ミラーボール」「オーガスト」は、作風が「レッド」や「1989」のようなポップスならヒットしているだろう。「ディス・イズ・ミー・トライング」はサイケデリック方向に傾いた音の厚いポップスで、どのアルバムに入っていても名曲だ。「ベティ」はハーモニカが入る60年代フォーク。「エグザイル」はボン・イヴェールと共演。1曲目に「ザ・ワン」、7曲目に「セヴン」、8曲目に「オーガスト」を置いており、アルバムの中で何曲目かということと曲のタイトルを一致させている。曲単位よりもアルバム単位で聞かれることを想定していることがうかがえる。
2020年。「フォークロア」と同じメンバーで、その延長線上のアルバムとして制作されている。従って作風も似ているが、「フォークロア」よりもアコースティック楽器を使う曲が多い。ミドルテンポのフォーク、ピアノ弾き語りが続く中で、電子音中心の「ゴールド・ラッシュ」「ロング・ストーリー・ショート」、バンド演奏が目立つ「ノー・ボディ、ノー・クライム」をほどよい感覚で配置している。「ノー・ボディ、ノー・クライム」はハイム、「コニー・アイランド」はザ・ナショナル、「エヴァーモア」はボン・イヴェールと共演し、同じような曲調が続かないようにしており、一定数いるであろうポップ志向の聞き手をつなぎ止める。
2021年。「フィアレス」の再録音盤。2枚組。1枚目は「フィアレス」の曲順どおり13曲、2枚目はデラックスバージョン収録曲の再録音と、未発表曲6曲を収録。過去のレコード会社との原盤の所有権争いは他のアーティストでも起こっているが、対抗策として再録音盤を出せる力があるのはテイラー・スウィフトくらいだろう。2008年版とほぼ同じ編曲、演奏となっている。演奏者も2008年版と同じ人を呼び寄せており、「ブリーズ」はコルビー・キャレイとデュエットしている。完全に同じではないため、違いを探すという別の聞き方もできる。2008年版当時は19歳、このアルバムは31歳で録音しているため、ボーカルは成熟している。未発表の6曲は充実しており、今後大量に出てくるであろう未発表曲に期待できる。
2021年。「レッド」の再録音盤。「フィアレス(テイラーズ・ヴァージョン)」と同様、1枚目は「レッド」の再現、2枚目は9曲の未発表曲が収録されている。2012年版「レッド」と比べ、重要な違いはマックス・マーティン、ダン・ハーフが参加していないことだ。「ガール・アット・ホーム」はカントリーからポップスに大幅変更している。未発表曲では、「ラン」はエド・シーラン、「ナッシング・ニュー」はフィービー・ブリジャーズと協演している。カントリー系のクリス・ステイプルトンと協演した曲を含め、2人で歌う曲はアコースティックギター中心の曲。「メッセージ・イン・ア・ボトル」はザ・ポリスのカバーではなく、テイラー・スウィフト、マックス・マーティン、シェルバックの共作。「ベター・マン」はリトル・ビッグ・タウン、「ベイブ」はシュガーランドに提供した曲をセルフカバーしているので純粋に未発表というわけではない。
2022年。エレクトロ、インディー寄りの音楽で、ギターやドラムよりも電子機器で制作された音が多い。「エヴァーモア」から2年なので、再録音盤を2枚出したことによるアルバム間隔への影響はない。電子機器やシンセサイザー中心の音とはいえ軽快なポップスではなく、アルバムタイトルの真夜中をイメージした抑制的な曲調で統一されている。ボーカルも高い音階では声を抑えている。ポップスという言葉を使わずに曲調を表すとすれば、オルタナティブインディーエレクトロか。「ミッドナイト・レイン」「ラビリンス」では声を加工し、男性とデュエットしているように聞こえる。「ラヴェンダー・ヘイズ」「ヴィジランテ・シット」はエレクトロヒップホップの影響が大きい。「アンチ・ヒーロー」「ユーア・オン・ユア・オウン、キッド」「マスターマインド」はボーカルが多重録音され、ヒット性がある。
2023年。「フィアレス」「レッド」の再録音盤と同じように2枚組だが、1枚目と2枚目のバランスが異なる。1枚目はスタンダード版の14曲ではなくデラックス版の2曲も含めた16曲、2枚目は未発表曲のみの6曲を収録している。もともとオリジナル版を再現して出し直すという方針だったが、3枚目の再録音盤ではその方針にこだわらなくなっている。2010年のオリジナル版に比べてロック寄りになり、ボーカルは自信にあふれている。当時の曲調やボーカルに含まれていた不安は大きく後退し、成長過程の記録としての価値はかなり失われたと言ってよい。演奏の水準が上がることは必ずしもいいことではない。「ベター・ザン・リヴェンジ」は歌詞が変更されている。これも後年再録音することに伴う過剰な変更かもしれないが、再録音した時点でテイラー・スウィフトの意志が全体としてその方向にあったことの、1つの記録となっている。未発表曲の「エレクトリック・タッチ」はフォール・アウト・ボーイ、「キャッスルズ・クランブルズ」はパラモアのヘイリー・ウィリアムズと協演。「エレクトリック・タッチ」はメロディーがフォール・アウト・ボーイに近い。
2023年。2枚組が続いてきた再録音盤では初めて1枚に収まった。未発表曲は5曲。シンセサイザーやプログラミングを多用したアルバムは再現しやすいのか、2014年版の「1989」に近づけた。2014年版では16曲のうち9曲に関わっていたマックス・マーティンとシェルバックが、再録音盤では「ワイルデスト・ドリームス」でシェルバックがプロデュースに参加しているだけだ。未発表曲では「セイ・ドント・ゴー」をダイアン・ウォーレンが共作している。「シェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!」は3人で録音していた金管楽器を6人で再録音している。
2024年。「ミッドナイツ」の路線を継承するシンセサイザー中心のミドルテンポの曲が並ぶ。アデル、ラナ・デル・レイ、ミツキ、ビリー・アイリッシュらを含め、女性シンガー・ソングライターの1つのスタイルを踏んでいる。シンセサイザーとドラムマシンがアコースティックギターとドラムに変わったとしても、フィービー・ブリジャーズ、エンジェル・オルセンのようにミニマルな曲調になっただろう。デビュー当初のように10代のころの経験を歌うことは少なくなっても、自分の周りで起こったこと、自分が思うところを歌うことは変わらず、テイラー・スウィフトにとって曲を構成する演奏は自分の心境を表明するためのテクスチャーとなっている。全体として声は抑制的で低く、「フーズ・アフレイド・オブ・リトル・オールド・ミー?」に出てくるような高い声は少ない。アップテンポなのは「アイ・キャン・ドゥ・イット・ウィズ・ア・ブロークン・ハート」。「フォートナイト」はポスト・マローン、「フロリダ!!!」はフローレンス・アンド・ザ・マシーンのフローレンス・ウェルチと協演している。
2024年。「ザ・トーチャード・ポエッツ・デパートメント」の配信開始から2時間後に出た拡張版。2枚組。1枚目は通常版の16曲、2枚目は15曲を収録。CD版は拡張版にさらに4曲を追加して7カ月後に出た。
2025年。。