TAME IMPALA

テーム・インパラはオーストラリアのケヴィン・パーカーを中心とする個人プロジェクト。当初は5人編成のバンド。60年代後半から70年代前半のサイケデリックロックに傾倒しながら、90年代以降の編集加工、プログラミング、非欧米文化も導入し、2010年代のポピュラー音楽文化を集積している。

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INNERSPEAKER

INNERSPEAKER

2010年。1970年前後のサイケデリックロックを、2000年以降の技術で録音、編集し、エレクトロニクスとの境界をまだら模様にしている。サウンドの参照元、特にギターは70年代前半のハードロックの電気的歪みが大きい。「ザ・ボールド・アロウ・オブ・タイム」のギターサウンドは、わざわざそうしないと作れないような音になっており、クリーム、ブラック・サバス、マウンテン等の影響は明らかだ。

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LONERISM

LONERISM

2012年。キーボード中心のサウンドになり、60年代風ギターが出てくるのは「アンドール・トワ」「エレファント」「マインド・ミスチフ」「キープ・オン・ライイング」くらいになっている。キーボードが中心になっても70年代前半風のサウンドは変わらず、ボーカルや各楽器の残響の大きさ、音のこもり方がその雰囲気を増幅している。当時のサイケデリックロック、プログレッシブロックほどの小難しさ、近寄りがたさはなく、ややポップなボーカルが親しみやすさを出している。ボーナストラックの「レッド・ツェッペリン」はレッド・ツェッペリンのメロディーを使っていない。日本盤は2013年発売。このアルバムで日本デビュー。

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CURRENTS

CURRENTS

2015年。音に濁りや歪みがなくなり、キーボードやドラムがキレよく、明瞭に響く。エレクトロニクスも使い、80、90年代のポップスのように制御されたシンセサイザー音で構成されるので、60、70年代のサイケデリックロックの雰囲気は薄くなっている。残響の多さは残されているが、それは中心人物のケヴィン・パーカーが子どものころに聞いていたポップスと、2000年代のドリームポップの両方が影響している。バンドサウンドとプログラミングによるエレクトロサウンド、サンプリングの音がほとんど区別できないくらいに混合しているが、そのようなアーティストが他にもあるにも関わらずテーム・インパラが注目されるのは、サイケデリックロックから出発しているという音楽的変動の象徴性、イギリスやアメリカではなくロックの先端地ではないオーストラリアの地方から出てきたという地理的広がりが認められるからだ。

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THE SLOW RUSH

THE SLOW RUSH

2020年。シンセサイザーとボーカルの編集加工でサイケデリック音楽の感覚を喚起し、ドラム、パーカッション、リズムは明瞭な2000年代以降の多様な音を使う。不安や疎外といった内面の危機を問う歌詞もデビュー時から一貫している。ジャケットはテーム・インパラの音楽性をよく表しており、赤はサイケデリック、砂は浸食、渇望とみなせる。赤い部屋という自己(文明化した人間)の領域に無限の砂が押し寄せることは、青年期の心理と自然の脅威の両方を可視化している。

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DEADBEAT

DEADBEAT

2025年。リズムはエレクトロビート中心。それでもエコーがかかったボーカルはサイケデリック音楽のイメージを呼び起こす。「ドラキュラ」「エスリアル・コネクション」はテーム・インパラがやらなくても他のアーティストが既にやっているというような曲だ。「ノット・マイ・ワールド」「エスリアル・コネクション」のような曲でテーム・インパラのエレクトロ音楽方面への振り幅を伸ばした。音楽的に曲がよくできているかどうかよりも、選択肢の拡大が重要だったのかもしれない。「ルーザー」はバンド感を残す。

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