1960年代のオムニバス盤

1960年代を中心とするさまざまな企画盤。レコードが作曲家、作詞家、プロデューサー、演奏家、歌手の集合体による生産物から自作自演のアーティストによる創造物へと変化する過渡期に、それぞれの立場の音楽関係者が残した曲、作品を集めた企画盤。

NUGGETS ORIGINAL ARTYFACTS FROM THE FIRST PSYCHEDELIC ERA 1965-1968

NUGGETS ORIGINAL ARTYFACTS FROM THE FIRST PSYCHEDELIC ERA 1965-1968

1972年。パティ・スミス・グループのレニー・ケイが趣味で編集したアメリカのガレージロックのオムニバス盤。ビートルズの成功によって若年層の音楽としてロックが一般的になり、全米にロックバンドが生まれた。それぞれのバンドはその当時のロックの一部を少しずつ吸収し、独自の音を構成した。これらの一群がサイケデリックロックやガレージロックのブームを分厚く肉付けした。このオムニバス盤は何度も再発売され、ロックの多様性を示すとともに多くのバンドの参考事例となった。このオムニバス盤に出てくるバンドの多くは後にバンド単独でCD化されている。エレクトリック・プルーンズ、アル・クーパーがいたブルース・プロジェクト、ブルース・マグース、サーティーンス・フロア・エレベーターズ、カウント・ファイブ、テッド・ニュージェントがいたアンボーイ・デュークス、カート・ベッチャーとゲイリー・アッシャーのサジタリアス、トッド・ラングレンがいたナッズは有名。エレクトリック・プルーンズはローリング・ストーンズ、マウスはボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」、モジョ・メンはビートルズ、プレミアーズはキングスメンを下敷きにしている。ヴェイグランツの「リスペクト」はアレサ・フランクリン、アンボーイ・デュークスの「ベイビー・プリーズ・ドント・ゴー」はビッグ・ジョー・ウィリアムズ、リーブスの「ヘイ・ジョー」はジミ・ヘンドリクスで有名な曲のカバー。日本盤は2016年発売。

COME TOGETHER:BLACK AMERICA SINGS LENNON&McCARTNEY

COME TOGETHER:BLACK AMERICA SINGS LENNON&McCARTNEY

2011年。邦題「カム・トゥゲザー~ブラック・アメリカが歌うビートルズ」。60年代から75年までに出たアフリカ系アメリカ人によるジョン・レノン&ポール・マッカートニーのカバー曲を集めた企画盤。24曲収録。解説が優れており、日本盤はその全訳が読める。アメリカでのビートルズの受け入れられ方も分かる。ビートルズの「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」に出てくるファルセットの「ウー」はもともとリトル・リチャードを模倣しており、リトル・リチャードはそのビートルズの曲をカバーしている。「レット・イット・ビー」はポール・マッカートニーがアレサ・フランクリンを想定して作曲したとされ、アレサ・フランクリンのカバーが収録されている。一般にビートルズの有名曲のほとんどは多数のカバー曲があり、どのアーティストを選ぶかは難しいが、この企画盤では編曲がよければ無名のアーティストでも採用されている。

LET IT BE:BLACK AMERICA SINGS LENNON,McCARTNEY AND HARRISON

LET IT BE:BLACK AMERICA SINGS LENNON,McCARTNEY AND HARRISON

2016年。邦題「レット・イット・ビー~ブラック・アメリカが歌うビートルズ」。アフリカ系アメリカ人が歌うビートルズの曲を集めた企画盤。22曲のうちジョージ・ハリソンは3曲ある。第2弾だが「レット・イット・ビー」「ドント・レット・ミー・ダウン」「エリナー・リグビー」は前作にも別のアーティストで収録されている。アレサ・フランクリンの「エリナー・リグビー」、ジ・アンディスピューテッド・トゥルースの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」はソウル。メリー・ウェルズの「ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット」はボサノバ風。アーサー・コンレイの「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」はデュアン・オールマンがギターを弾いている。ほとんどの曲が2、3分台の中、アイザック・ヘイズの「サムシング」は12分近くあり、録音された70年時点でのソウルとロックの雰囲気をうまく融合している。ゲイリーUSボンズ、ディオンヌ・ワーウィックはいい音だ。

HOW MANY ROADS:BLACK AMERICA SINGS BOB DYLAN

HOW MANY ROADS:BLACK AMERICA SINGS BOB DYLAN

2010年。邦題「風に吹かれて~ブラック・アメリカが歌うボブ・ディラン」。20曲収録。多くは60、70年代に録音されている。社会性が高い曲が多いボブ・ディランの曲を、アフリカ系アメリカ人が歌うことの真実味は大きいだろう。多くの曲は朗々と歌い上げる。それは、歌詞に意思や精神を込めようとするからだろう。1曲目は「風に吹かれて」。「天国への扉」「レイ・レディ・レイ」は原曲に近いが、「ミスター・タンブリン・マン」は大幅にアレンジを変えている。パースエーションズの「ザ・マン・イン・ミー」はアカペラ。「あわれな移民」「エモーショナリー・ユアーズ」はすばらしい。

GIRLS GIRLS GIRLS:A RECOLLECTION OF DREAM DATES 1955-1965

GIRLS GIRLS GIRLS:A RECOLLECTION OF DREAM DATES 1955-1965

2007年。邦題「君の名を叫びたい~浮かれ男子の妄想ガールズ・ネーム・ソングブック」。曲名に女性の名前が含まれる曲を集めた企画盤。ニール・セダカの「おお!キャロル」、ビーチ・ボーイズの「バーバラ・アン」のほか、トニー・シェリダンと彼のビート・ブラザーズで有名な「マイ・ボニー」はレイ・チャールズのバージョン、リトル・リチャードで有名な「ジェニー、ジェニー、ジェニー」はエディ・コクランのバージョンで収録している。60年代半ばまではロックンロール、リズム&ブルースが男女のコミュニケーションの道具のひとつであり、アンサーソングの続出はその様相の一端だ。60年代後半に音楽が中流層の共同体意識醸成の道具になっていくと、アンサーソングの居場所はなくなっていく。

THE ANSWER TO EVERYTHING:GIRL ANSWER SONGS OF THE 60s

THE ANSWER TO EVERYTHING:GIRL ANSWER SONGS OF THE 60s

2007年。邦題「男子たち、これが答よ!~女子たちのアンサー・ソング」。男性が歌うラブソングに対する、女性歌手からのアンサーソングを集めた企画盤。28曲収録。「男が女を愛する時」に対する「女が男を愛するとき」、「シェリー」に対する「私がシェリー」、「今夜はひとりかい?」に対する「もちろん、ひとりよ」等を収録。60年代のアンサーソングの多くは、元の曲のメロディーやアレンジを流用している。シュレルズの「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」に対する「いつまでも」は女性に対する男性からのアンサーソング。日本盤の解説では、現代のアンサーソングの系譜としてアル・ヤンコヴィックらを挙げた上で、ファレル・ウィリアムスの「ハッピー」やテイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ」の返歌は存在するのかと問うている。アル・ヤンコヴィックは「ハッピー」のパロディーを2014年に出している。テイラー・スウィフトも別の曲を2011年にパロディーにしている。日本盤は2016年発売。

ANSWER SONG SPECIAL

ANSWER SONG SPECIAL

1993年。邦題「ライオンは寝ている/トラは起きている~アンサー・ソング・スペシャル」。アンサーソングを集めた企画盤。24曲収録。「ライオンはねている」に対する「トラは起きている」、ニール・セダカの「おお!キャロル」に対するキャロル・キングの「おお!ニール」などを収録。ディオンの「浮気なスー」とハーマンズ・ハーミッツの「ミセス・ブラウンのお嬢さん」はアンサーソングが2曲ある。一般的にアンサーソングは元になった曲の音と歌詞を流用するが、シャングリラスの「リーダー・オブ・ザ・パック」に対するディタージェンツの「リーダー・オブ・ザ・ラウンドロマット」はメロディーをかなり変えている。

YOU HEARD IT HERE FIRST!

YOU HEARD IT HERE FIRST!

2008年。邦題「名曲の履歴書~この曲最初に演ったのうちらなんですけど……何か?」。有名アーティストのカバーによってヒットした曲の最初の録音を集めた企画盤。エルヴィス・プレスリーの「サスピシャス・マインド」、トロッグスの「恋はワイルド・シング」、クラッシュの「アイ・フォート・ザ・ロウ」、ゲーリー・ルイスとプレイボーイズの「恋のダイアモンド・リング」、キングスメンの「ルイ、ルイ」、ミリー・スモールの「マイ・ボーイ・ロリポップ」のオリジナル曲を収録。「ルイ、ルイ」はキングスメンが「ルアイ、ルアイ」と歌ってヒットするが、最初のシングルでは「ルイ、ルイ」と歌っている。「サスピシャス・マインド」「マイ・ボーイ・ロリポップ」はヒットしたバージョンに近い。ジミ・ヘンドリクスの「ヘイ・ジョー」、ビル・ヘイリーと彼のコメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」のオリジナル曲はこの企画盤の最後に2曲続けて収録されている。

YOU HEARD IT HERE FIRST! VOLUME2

YOU HEARD IT HERE FIRST! VOLUME2

2010年。邦題「名曲の履歴書第二章~この曲最初に演ったのうちらなんですってば!!」。有名アーティストのカバー曲にはカバー元が存在するが、それがその曲の最初の録音とは限らない。ディープ・パープルの「ハッシュ」はジョー・サウスのカバーだが、最初の録音は「チェリー・ヒル・パーク」で有名なビリー・ジョー・ロイヤルなので、それが収録されている。「夢のカリフォルニア」はバリー・マクガイアが歌っているが、コーラスはカバー曲を出す前のママス&パパスが歌っている。ジェファーソン・エアプレインがカバーした「あなただけを」は、オリジナル曲のバンドでもジェファーソン・エアプレインに加入する前のグレース・スリックが歌っている。ダスティ・スプリングフィールドの「この胸のときめきを」、トーケンズの「ライオンはねている」、ジョージ・ハリソンの「セット・オン・ユー」、ニルソンの「うわさの男」のオリジナル版を収録。「ライオンはねている」は1939年の録音。

YOU HEARD THEM HERE FIRST:ROCK'S ICONS BEFORE THEY WERE FAMOUS

YOU HEARD THEM HERE FIRST:ROCK'S ICONS BEFORE THEY WERE FAMOUS

2009年。邦題「カリスマたちのホロ苦デビュー」。有名アーティストのデビュー曲や無名時代の曲のうち、ヒットしなかった曲を収録。多くの曲が60年代半ばから後半に録音されており、ロック、ポップスの過渡期に出た旧型の曲が多い。1曲目はデヴィッド・ボウイ、最後の曲はロッド・スチュワートが選ばれている。シェリリンとして録音したシェールの曲は、フィル・スペクターの弟子だったソニー・ボノがフィル・スペクターそっくりに録音している。ザ・バーズの前身のビーフィーターズはビートルズの曲をバーズが録音したような曲。後にヴァニラ・ファッジとなるザ・ピジョンズの曲はウィルソン・ピケットのカバーで、マーサ&ヴァンデラスの「ダンシング・イン・ザ・ストリート」のような曲。ブッカー・T&ザ・MGズをまねたアーサー・リー&ザ・LAGズは、ブッカー・T&ザ・MGズのようなオルガン中心のインスト曲。アーサー・リーは後にラヴを結成。ボ・ピートとして録音したニルソンの曲はオルガンが目立つロックンロール。ザ・バンドとなるリヴォン&ザ・ホークス、グラム・パーソンズがいたインターナショナル・サブマリン・バンドは全盛期の個性が垣間見える。

ELVIS HEARD THEM HERE FIRST

ELVIS HEARD THEM HERE FIRST

2012年。邦題「この曲を見つけたのはエルヴィス・プレスリー」。エルヴィス・プレスリーが兵役から復帰した1960年から死の1977年までにカバーした曲を集めた企画盤。日本盤の帯には復活した68年から77年までにカバーした曲を収録と書かれているが、60年からが正しい。24曲収録。おおむねカバー元の曲が録音された年代順に並んでいる。60年代前半はギターよりもピアノやサックスが目立つ曲や、リズム&ブルースが多く並ぶ。60年代後半になるとロック、フォークが入り、その中にボブ・ディランの「明日は遠く」も含まれる。ブレンダ・リーの「ールウェイズ・オン・マイ・マインド」、デュアン・エディの「恋はいばらの道を」はエルヴィス・プレスリーのイメージに近い曲。コースターズの「ガール!ガール!ガール!」、ミッキー・ニューベリーの「アメリカの祈り」収録。

SCRATCH MY BACK! PYE BEAT GIRLS 1963-1968

SCRATCH MY BACK! PYE BEAT GIRLS 1963-1968

2016年。イギリス、ロンドンのパイ・レコードからレコードを出した女性歌手、グループの曲を集めた企画盤。24曲収録。1963年から68年はビートルズの全盛期と重なる。他にも多様なロックバンドが出ていたが、パイ・レコードはそれらとは一線を画すようなポップスと、当時のロックを意識した曲の両方を維持している。収録曲の中ではペトゥラ・クラークとサンディー・ショウが有名。ブレイカウェイズ、ニタ・ロッシ、トーニー・リード、タミー・セント・ジョンはアレンジが豪華だ。シャロン・タンディはビートルズ風。シーラ・カーター&エピソード・シックスはディープ・パープルのイアン・ギランとロジャー・グローヴァーがいたバンド。

GIRLS WITH GUITARS

GIRLS WITH GUITARS

2004年。邦題「飾りじゃないのよギターは~ガールズバンド創世記」。ビートルズが60年代前半から半ばに英米で流行したことを受け、バンドを始めた女性グループの曲を集めた企画盤。24曲収録。バンドだけでなく、男性ロックアーティストのコーラスグループも含まれている。ザ・ガールはドラムがボーカルを兼任するギター2人の4人編成。ザ・ビートレッツはビートルズのアメリカデビュー当時のバンド名の綴りのミスを、自らにも反映させた貴重なバンド名だ。キャシー・リン&ザ・プレイボーイズはインスト曲のライブ録音。ローリング・ストーンズやキンクスと共演した5人編成のゴールディ&ジンジャーブレッズは4曲も収録されている。60年代半ばに出た曲は当時のポップなロックを模倣していることが多いが、69年に出たシーの曲はサイケデリックで、最先端に追いつこうとする意欲がうかがえる。日本盤は2014年発売。

DESTROY THAT BOY! MORE GIRLS WITH GUITARS

DESTROY THAT BOY! MORE GIRLS WITH GUITARS

2009年。「飾りじゃないのよギターは~ガールズバンド創世記」の続編。24曲収録。女性のみで演奏している曲もあるが、スタジオミュージシャンが演奏している曲もある。シー・トリニティはシングル6枚、ホワット・フォーはシングル2枚、スターレッツはスプリットシングルで1曲しかなく、曲もカバーが多い。自作自演まで行くバンドは少なかったようだ。ライバーバーズは60年代の女性バンドとしては最もプロらしい活動をしている。バンドではなくソロ歌手の曲もあるが、総じてその当時としてはかなり騒々しい音であっただろうギター音が含まれている。スターレッツの「ユー・ドント・ラブ・ミー」はデイビー・アランのファズギターがポイント。シー・トリニティの「ヒー・フォート・ザ・ロウ」はザ・クラッシュで有名な「アイ・フォート・ザ・ロウ」と同じ曲。フォンデッツの「ザ・ビートルズ・アー・イン・タウン」はドナ・リンの「夢見るビートルズ」と同じ1964年に出ている。ターマイツの「テル・ミー」はローリング・ストーンズのカバー。

THE REBEL KIND:GIRLS WITH GUITARS3

THE REBEL KIND:GIRLS WITH GUITARS3

2014年。邦題「ザ・レベル・カインド ガールズ・ウィズ・ギター3」。「飾りじゃないのよギターは~ガールズバンド創世記」の第3弾。24曲収録。情報がほとんどないバンドも収録。国籍も多様で、日本のピンキー・チックスもある。女性が歌っているだけの、いわゆるビートガールも含まれている。ザ・ガールズの「チコズ・ガール」はシンシア&ワイルがクリスタルズのために作った曲。チャイムスの「ヒーズ・ノット・ゼア・エニーモア」は日本人好みのメロディーだ。ピンキー・チックスの「そばにいて」はいわゆるGS歌謡。ジミ・ヘンドリクスに賞賛されたというエース・オブ・カップスの「ストーンズ」と、シャンテルズの「ペルビアン・ウェディング・ソング」は活動当時に発売されなかった曲。ブートルズの「アイル・レット・ユー・ホールド・ユア・ハンズ」はビートルズの「抱きしめたい」のアンサーソング。ハニービーツがボブ・ディランの「行ってもいいぜ」をカバーしているのは珍しい。

GIRLS WITH GUITARS GONNA SHAKE!

GIRLS WITH GUITARS GONNA SHAKE!

2022年。「飾りじゃないのよギターは~ガールズバンド創世記」の第4弾。25曲収録。第4弾はビートルズ以外のアーティストに影響を受けたバンドが中心。ロックンロールとサーフィン1曲目のベルズの「メルヴィン」はゼムの「グロリア」の女性版。ミスフィッツはジョン・リー・フッカー、ボ・ディドリー、チャック・ベリーのカバーを収録。エース・オブ・カップス、ベルズ、ガールズ・テイク・オーバーは自作曲が入っており、ガールズ・テイク・オーバーの「スターダスト・カム・バック」はオルガンが終始鳴り響くサイケデリックな曲だ。

SIGH CRY DIE:29 GARAGE ROCK TALES OF WOE AND DESPAIR FROM SIXTIES

SIGH CRY DIE:29 GARAGE ROCK TALES OF WOE AND DESPAIR FROM SIXTIES

2004年。邦題「ヘタレの花道~ガレージ・ロック凹(ヘコミ)編」。60年代のアメリカのガレージロックのうち、主に男性の視点による失恋の悲哀などを歌った曲を集めた企画盤。1バンド1曲ずつ、29曲収録。この企画盤が成立する背景には、男は常に女を力強く導くものという「男らしさ」の規範が広く共有されているという状況がある。プロのレコードプロデューサーが演奏を整えればガレージロックを超えたシングル盤になったであろう曲がかなりある。それは、男女を問わず失恋や喪失が感情を高揚させ、感傷的、情緒的な表現の発露を呼ぶからだ。その意味では、曲に出てくる主人公の男性を「ヘタレ」と言い、「女々しい失恋の歌ばかり集めたダメダメなヘタレ・ソング集!」と呼ぶ日本盤の感覚はずれている。

PARTY PARTY PARTY:34 ROW,RUTHLESS AND RUGGED SIXTIES GARAGE ROCKERS

PARTY PARTY PARTY:34 ROW,RUTHLESS AND RUGGED SIXTIES GARAGE ROCKERS

2004年。邦題「バカの花道~ガレージ・ロック凸(エレクト)編」。60年代のアメリカのガレージロックのうち、勢いだけで演奏したとか、ふざけて録音したとか、深く考えずに歌ったとか、衝動的なものを集めた企画盤。1バンド1曲ずつ、34曲収録。各バンドのプロフィールはCDのブックレットになく、いつ録音されたのか、どこのバンドなのかも分からない。日本盤のみに各曲の簡単な日本語解説がある。インスト曲やロックンロールが多いことから、60年代半ばの録音が多そうというのは推測できる。この日本盤のために付けたとみられるいくつかの邦題(「パーティにようこそ」「かあちゃんの叫び」「足踏んでるよ」「無礼講」「出入り禁止」など)がある。60年代後半にアルバムが発売できたような有名ガレージバンドは、これらのバンドとは一線を画する個性があったと分かる。

60s UK HARMONY POP BATTLE ROYALE THE GIBSONS VS. THE CYMBALINE

60s UK HARMONY POP BATTLE ROYALE THE GIBSONS VS. THE CYMBALINE

2019年。邦題「60年代英国ハーモニー・ポップ歌合戦:ギブソンズ対シンバライン」。60年代にイギリスからデビューしたボーカルグループ、ギブソンズとシンバラインのシングル曲を集めた企画盤。ジャケットは64年に出た「ビートルズ対フォー・シーズンズ」のパロディーで、ブックレットのレイアウトも当時のレコードを再現している。ギブソンズの「ザ・マジック・ブック」はクック=グリーナウェイの作曲。コール・ポーター作曲のスタンダード曲「ナイト・アンド・デイ」はオルガンがややサイケデリックだ。「シティ・ライフ」は曲の全編に騒音の効果音を入れている。「ユーアー・ロンリー」はグラス・ルーツのカバー。シンバラインの「マリッジ・ブルー」と「ファイアー」はサイケデリックの流行を反映している。両グループとも60年代前半のボーカルグループの成功例を意識しすぎ、それはグループだけのせいではないが、60年代後半に自らのイメージを超える突き抜けた曲を出せなかった。彼らが手本にしたであろうフランキー・ヴァリ&フォー・シーズンズも60年代後半には人気が低迷しており、白人ボーカルグループにとって60年代後半は厳しい時代だった。

COME SPY WITH US

COME SPY WITH US

2014年。邦題「ボンドにソロにクリアキン~スパイだヨ!全員集合」。60年代に上映されたスパイ映画、ドラマの曲を集めた企画盤。主題歌だけでなく挿入歌も含む。「スパイ大作戦」の「ミッション・インポッシブル」は実際に映画で使われた曲ではなく、作曲者のラロ・シフリンが別の編曲で演奏した曲。007シリーズの「ジェームズ・ボンドのテーマ」、「続・殺しのライセンス」ほか、多くの曲は他のアーティストがカバーした曲が使われている。スパイ映画の主題歌集ではなく、スパイ映画の主題歌のカバー曲集と認識した方がよい。「ビキニマシン」はシュープリームス、「恐怖との遭遇のテーマ」はアストラット・ジルベルトが歌う。「ゴールドフィンガー」で有名なシャーリー・バッシーは「リキデイター(始末屋)」を「ゴールドフィンガー」と同じように力強く歌っている。

WISHYOUAWISH:THE HOLLIES' COMPILATIONS BY OTHERS,1965-1968

WISHYOUAWISH:THE HOLLIES' COMPILATIONS BY OTHERS,1965-1968

2018年。邦題「恋のサインで、飛び出せ初恋 あなたの知らないホリーズ・ソングブック」。ホリーズの曲をカバーしたアーティストの曲を30曲収録。オーストラリアのレコード会社が企画しているのでオーストラリアのアーティストが複数含まれる。オーストラリアはシーカーズやビー・ジーズ、リトル・リバー・バンドのようなボーカルハーモニーを重視するアーティストを輩出しているので、ホリーズの人気も高かっただろう。この企画盤では、ホリーズの自作曲の質の高さに焦点を当てている。エレクトリック・プルーンズ、キース、バッキンガムズ、エヴァリー・ブラザーズは有名。エピソード・シックス、レーン&ザ・リー・キングスも知られたグループ。無名のグループのカバーも多い。短い期間に限定しても30曲集められるのは、ホリーズがメンバー内にクック・グリーナウェイ、キング・ゴーフィンのような優れた作曲チームを擁していたからだろう。対象を70年代に広げれば続編も可能だ。

THIS IS ONE HIT WONDERS Vol.1

THIS IS ONE HIT WONDERS Vol.1

1994年。「栄光の一発ヒット屋たち」。1955年から67年まで、全米チャートの100位以内に入った曲が1曲しかないアーティストの曲を集めた企画盤。24曲収録。日本企画なので海外盤はない。解説によると55年から67年まで、1曲しかチャートに入らなかったアーティストは1000近くあるという。ビートルズがアメリカで人気を得る前の、ポップス、リズム&ブルース、ドゥーワップが多い。ヒット曲の二番煎じとみられる曲もある。有名アーティストの別名時代の曲としてはポール・サイモンが収録されている。「ビー・マイ・ベイビー」「テル・ミー・ママ」はいい曲だ。

THIS IS ONE HIT WONDERS Vol.2

THIS IS ONE HIT WONDERS Vol.2

1995年。前作の続編。22曲収録。収録されるアーティストが前作よりもマイナーになり、詳細が分からない人も多い。60年代当時に日本盤が出ているシングルが多いのにも驚きだ。トニー・シェリダンと彼のビート・ブラザーズの「マイ・ボニー」もそのひとつだろう。ナポレオン14世の「狂ったナポレオン、ヒヒ、ハハ・・・」収録。ブーツ・ウォーカーの「ゼイアー・ヒア」は「狂ったナポレオン、ヒヒ、ハハ・・・」のアンサーソングに聞こえる。

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