エルヴェンキングはイタリアの民謡メタルバンド。バイオリンを含む6人編成。イギリスの民謡メタルバンド、スカイクラッドに影響を受けている。
2001年。ギター2人の5人編成で録音。バイオリン、フルート、女性歌手が参加し、11曲のうち8曲でキーボードが使われる。スカイクラッドに影響を受けており、メインのボーカルはヘビーメタル風の歌い方だが、曲によってギターがデス声で歌う。スカイクラッドと異なるのは、メロディーが90年代のヨーロッパのヘビーメタルを受けていることだ。さらに、時折明るいメロディーを含んでいることが他の民謡メタルバンドと一線を画している。7分半ある「シーズンスピーチ」はボーカル4人、バイオリン、フルートが総出演する。
2004年。ボーカルが交代し、バイオリン兼キーボードが加入、6人編成。前作に参加していた女性ボーカル2人、フルートのほか、さらに男女のボーカル2人、弦楽四重奏団が参加している。前作のボーカルが抜けたことで作曲者はギターの2人になり、曲は全体的にハードになっている。ボーカルも楽器編成も増え、音も厚くなってヨーロッパレベルへの体制は整った。最後の曲は12分ある。
2006年。ボーカルが交代しデビュー時のボーカルが復帰、ギターが1人抜け5人編成。バイオリンがメロディーを主導し、ギターがリズムギター中心になっている。曲の一部には90年前後のハロウィンや2000年前後のハンマーフォールなどの影響があり、現代のヘビーメタルの代表的音像であるデス声は使うものの多くはない。「朝霧の舞踏」はアコースティックギター、バイオリン、フルート中心の曲、「幻滅の踊り」はアコースティックギター中心の曲。アルバムタイトル曲はデストラクションのシュミーアがボーカルで参加している。このアルバムで日本デビュー。
2007年。邦題「ザ・サイス(血塗られた大鎌伝説)」。曲間に詩の朗読が含まれており、アルバムの統一性はあるが曲の勢いはそがれる。「トーテンタンツ」は詩の朗読以外のボーカルはない。前作に比べてバイオリンの量が減り、バイオリンとギターの主従関係は入れ替わった。一部で電子音のリズムが使われるようになった。曲間の詩の朗読がなければアルバムの印象は好意的に上振れするのではないか。バンドにとってアルバムはアイデアの実験場なので、この後どう発展させられるかにかかっている。
2008年。ギターはアコースティックギターが主体だが民謡風になっているわけではなく、通常のロックを想定した曲をアコースティックギターで演奏しているという印象だ。ほぼメンバーだけで演奏しており、前作まで参加していた女性ボーカルらはいない。「冬の目覚め」「彷徨人」は「ザ・ウィンター・ウェイク」収録曲のアコースティック版。「ヘブン・イズ・ア・プレイス・オン・アース」はベリンダ・カーライルの代表曲のカバー。
2010年。バイオリン奏者が交代。プロデューサーがメロディアスなヘビーメタルに強いデニス・ワードになったことが曲調に表れ、ハードロックに近くなった。バンドが作曲したメロディーにも影響を与えているだろう。ヨーロッパ全体で通用しそうな滑らかなメロディー、整合感のあるコーラス、バイオリンよりも多いキーボード、抑制的なギターは、バンドの編曲能力を世界レベルに引き上げたのは確実だ。「ゾーズ・デイズ」はデニス・ワードをプロデューサーにしなければ出てこなかったような曲だ。同時に、エルヴェンキングの個性は何なのかをバンドが考える機会にもなったはずだ。
2012年。ベース、ドラムが交代。「ザ・ウィンター・ウェイク」のころに戻った。「ミッドナイト・スカイズ、ウィンター・サイス」「ウィ、アニマルズ」「スルー・ウルフズ・アイズ」は前作のハードロック風編曲の経験を生かした。「ザ・サイス(血塗られた大鎌伝説)」以前に比べ、メロディーが英米のロックにも通じる世界レベルになってきた。「フォーゲット・ミー・ノット」はこれまでになかったようなアメリカのポップなバラード風だ。結果的に、以前のヘビーメタルと英米化したメロディーのハードロックとの間で曲調が引き裂かれた。サヴァタージ、トランス・シベリアン・オーケストラのジョン・オリヴァが2曲に参加している。
2014年。ハードロック寄りの曲をなくし、ヨーロッパの伝承に基づいたヘビーメタルで統一した。これはバンドの方向性をデビュー時の民謡入りヘビーメタルに決めたことを意味している。バイオリンはストリングスとともに使われることが多くなり、バグパイプ、ホイッスル、キーボードも使うので音が厚くなっている。ラプソディーやコルピクラーニと異なる曲調を示しながら、ヨーロッパのメロディアスなヘビーメタルの要素を入れようとしており、アヴァンタジアを参照しているかのようだ。「ムーンビーム・ストーン・サークル」はアヴァンタジアそのものだ。オープニング曲はイントロを含めると14分半あり、タイトルも「キング・オブ・ザ・エルヴズ」であることから、これまでの活動の集大成として作曲したとみられる。最後の曲も9分近くある。
2017年。ドラムが交代。11曲目までがボーカルとギターの共作。最後の12曲目は2分半の女性ボーカル、アコースティックギター中心の曲で、アルバム全体は物語が設定されている。イタリア出身だからドイツのバンドに及ばなくてもしょうがないという評価は、2010年代ではもはや成り立たたない。イタリア出身の民謡メタルであること自体に活動の意義を見いだしているのかもしれないが、ボーカルの表現力、ヨーロッパ限定のアルバム内容に工夫を加えれば何とかなりそうだ。
2020年。3部作の1枚目。音楽文化に限らず、文化全般が男性的な重厚さから離れつつある時代に、3部作を始めようというところはヘビーメタルが持つ長大志向の強さを感じさせる。全体の物語をボーカルとギターの2人で創作している。90年代のドイツに始まる2000年代以降のヨーロッパのヘビーメタルをイタリアで受け継ぐような曲調。ボーカルが1人で歌っているときに、ハロウィン、ガンマ・レイのカイ・ハンセンを思い出してしまうことは善し悪しがあるだろう。物語に出てくる8人をボーカルの1人で歌っていることも、判断としてどうなのか。静かに始まり、すぐに本格的なバンド演奏で始まる曲が多く、イントロのような部分を付けずに直接曲に入ってほしい。
2023年。ドラムが交代し、「ペイガン・マニフェスト」時代のメンバーが復帰。ギターの一人も交代した。3部作の途中ながら、前作とは構成も曲調も変えてきており、何が起こったのかと思うほどだ。新たに加入したギターが作曲に関わっているため、その影響が出たとも言えるが、変化の要因はもっと多様だろう。バイオリンをギターと同じように扱うことが多く、民謡ではなく楽器の一部として使う。コーラスアレンジを新たに迎えたことでボーカルの弱さを補う編曲がされている。1分台の短い曲や10分近い長い曲もない。民謡メタルの定型を捨てたことがいい方向につながっている。「トゥ・ザ・ノース」はブラックメタルの要素を多く含む。ボーナストラックの「プライム・イーヴル」はヴェノムのカバー。